バランスの良い食事ってなんだろう? No.3

こんにちは、ペット栄養管理士のmickyです。

「イヌは雑食・ネコは肉食」と考えてご飯をあげる必要がある。
その理由をNo.1では私たちとの歴史と消化器の違いから探り、No.2では糖質をエネルギーにできるのかという視点から探ってきました。

ブドウ糖は体を動かすため、また脳にとっても重要なエネルギー源」
このことは私たちヒトだけでなく、イヌとネコにとっても同じです。

私たちヒトにとって糖質は必須の栄養素です。その理由は、主に糖質(デンプンなど)を消化・分解してブドウ糖を作りエネルギーにしているためです。ところが、イヌは糖を利用できるけれど必須の栄養素とはいえず、ネコに至っては糖質の利用がとても苦手だということがわかりました。そこでイヌとネコはいったいどの栄養素からブドウ糖を得ているのだろうか、という疑問が生まれました。

ということで!今回はその疑問を解いていきましょう。

バランスの良い食事ってなんだろう? No.3 ポムペット

前回のNo.1、No.2をまだ読まれていない方、もう1度読みたい、という方はこちら
バランスの良い食事ってなんだろう? No.1
バランスの良い食事ってなんだろう? No.2


エネルギーはどこから?

まずは五大栄養素とその主な役割の図をおさらいです。糖質以外でエネルギー源となる栄養素、それは脂質とタンパク質ですね。

五大栄養素 - バランスの良い食事ってなんだろう? No.2 ポムペット

脂質やタンパク質など、糖質以外の物質からブドウ糖を作るしくみのことを糖新生と呼びます。

糖新生は、糖質の分解と比べるとかなり複雑な過程を経て行われます。脂質やタンパク質を分解してできた物質。それを原料にして幾つもの化学反応を経て、ようやくブドウ糖ができます。

この糖新生はイヌやネコだけでなく私たちヒトの体でも行われいます。そこでまずは、ヒトの糖新生についてお話ししましょう。

糖新生:ヒト

ヒトにとって糖質はブドウ糖を得るために必須の栄養素です。もし糖質の供給がない時、空腹が続いた時にはどうなるのでしょう。

そんな時には、肝臓に貯蔵しているグリコーゲンを使います。グリコーゲンはブドウ糖をいくつか繋げた物質なので、分解してブドウ糖に戻せばエネルギーを得ることができます。そしてそのグリコーゲンも使い切ってしまった時、ヒトの体では糖新生が行われます。

ちょっと待って!脂質とタンパク質からブドウ糖をつくる話でしょう?
何も食べていないのにどうやって糖新生をやるの??

と、気がついた方、そうなのです。
空腹時なので、脂質やタンパク質なども食べていない状況です。そこで私たちの体は、自分自身の筋肉のタンパク質や中性脂肪を分解します。そしてできた物質を原料にしてブドウ糖を作ってエネルギーにしています。

糖質制限で痩せる理由、それは糖新生が行われているためだったのです。けれども、脂肪だけでなく筋肉も分解しているわけですから、糖質制限中の食事では良質なタンパク質や脂質を適量摂取する必要があるということにも納得ですね。

また、激しい運動を行った時などにも糖新生が行われます。この場合は運動で作られた乳酸が原料です。アスリートたちが継続して力を出せるのもこのためです。乳酸といえば、腸内の乳酸菌も乳酸を作りますが、こちらの乳酸は糖新生とはまた別の役割を担っています。

ではいよいよ、イヌとネコの糖新生についてみていきましょう。

糖新生:イヌとネコ - バランスの良い食事ってなんだろう? No.3 ポムペット

糖新生:イヌとネコ

イヌとネコでも空腹時に糖新生が行われます。けれども私たちヒトと違って、食べ物を食べた直後から活発に糖新生が行われています。つまり、イヌとネコは食べ物の脂質やタンパク質からエネルギーを得ることができる、ということです。

イヌとネコの糖新生やエネルギー産生に関わる研究から[1][2]、ネコは脂質やタンパク質を利用する能力がイヌよりも特化していることが分かりました。しかも常に脂質やタンパク質をエネルギーに変えていることも分かっています。つまり、ネコは完全に肉食動物で、イヌは肉食だけれど雑食性もあるということを意味しています。

またこれらの研究からは、ネコはグリコーゲンを作るための酵素がないことも分かりました。糖質を利用できるヒトとイヌはブドウ糖をグリコーゲンに変えて貯蔵することができます。これはつまり、私たちヒトやイヌは食い溜めができるけれど、ネコは食い溜めが出来ないため適度に食べ続ける必要がある、ということを意味しています。

No.1No.2のコラムから考えてきた、
「イヌは雑食・ネコは肉食」と考えてご飯をあげる必要があるということ。
今回のコラムと合わせて、なるほどなぁと思っていただけたでしょうか。

さて、脂質やタンパク質はエネルギー源になるだけでなく、体の構成成分になる役割もあります。そこで次回は脂質やタンパク質が体のどこにあるのか、などについてお話ししますね。

バランスの良い食事ってなんだろう? No.3 ポムペット

余談ですが、余ったブドウ糖は脂肪として蓄えられます。それは私たちヒトや、イヌとネコにとっても同じです。ネコは糖質の利用が苦手で、ブドウ糖をグリコーゲンに変えて貯蔵することができません。そのため、ネコにとって糖質は私たちやイヌよりも、とても太りやすい食べ物になります。

太ってしまったら、ご飯の量を減らしてダイエット?ところがその方法、ネコにとっては生死に関わる症状を引き起こす可能性があります。
ネコの体では空腹状態が続くとブドウ糖を作るために肝臓へ脂肪が集まります。つまり急性の脂肪肝の状態で、そのまま放置していると肝不全になってしまいます。これは肝リピドーシスという疾患で、肥満ネコがなりやすく、食欲不振の場合でも注意が必要だといわれています。

欧米では3日間空腹が続くと肝リピドーシスが起きるといわれていますが、アジアのネコたちは発症までの日数にもう少し猶予があるようです。その理由は食生活の違いや遺伝子の差ではないかと言われていますが、まだはっきりとした理由はわかっていません。

ドライフードは製造過程でどうしても糖質が必要になります。一方で、ウェットフードはタンパク質や脂質が多いのが特徴です。成分表を見比べてみたり、1日のうちの一食をウェットフードに替えてみるというのも良いかもしれません。ネコのダイエットは量を減らすのではなく、成分に注目してみるのが成功の秘訣だったりもします。

それでは、また次回のコラムでお会いしましょう〜。


参考文献

[1]. Washizu, T.; Tanaka, A.; Sako, T.; Washizu, M.; Arai, T. Comparison of the activities of enzymes related to glycolysis and gluconeogenesis in the liver of dogs and cats. Res. Vet. Sci. 1999, 67, 205–206.

[2]. Tanaka, A.; Inoue, A.; Takeguchi, A.; Washizu, T.; Bonkobara, M.; Arai, T. Comparison of expression of glucokinase gene and activities of enzymes related to glucose metabolism in livers between dog and cat. Vet. Res. Commun. 2005, 29, 477–485.

著者
micky

日本ペット栄養学会認定 ペット栄養管理士(第221039号)

micky

私は大学・大学院を通して分子生物学を専攻し、病院付属の研究所などで8年ほど研究のサポートをしてきました。現在は2頭のイヌたちと暮らしています。

日本ペット栄養学会では、獣医師や専門家などによる最新の研究報告や症例の報告が行われています。

イヌとネコの基本的な栄養のことはもちろん、病気の時の栄養管理、そして学会からの最新情報を科学的な視点から分かりやすくお届けします。